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研究内容PROJECT

私達の講座の研究テーマは
「腸内シンビオシスの分子機序解明とその高度応用展開」です。

ヒトの腸内には100種以上、総数にして100兆を超える細菌(腸内細菌と総称します)が生息しています。もともと日本では、善玉菌や悪玉菌という言葉が一般化しているように腸内細菌に気を配る傾向がありましたが、それは経験的なものが大きかったと思います。しかしながら最近になって、腸内細菌が宿主(ヒトやマウスなど)に与える影響について科学的なメスが入るようになってきており、肥満や炎症制御、あるいは行動にまで関わっていることが分子レベルで明らかとなってきました。腸内細菌と宿主との関係は、世界的に大きな研究分野へと発達してきています。では、何が宿主と腸内細菌の“共生”を成立させているのでしょうか。私達は、“宿主が産生し腸内細菌の生理機能に影響を与える化合物”および“腸内細菌が産生し宿主の生理機能に影響を与える化合物”を「シンビオジェニック因子*」と命名し、この定義にあてはまる化合物をもとにして、宿主と腸内細菌の共生関係を明らかにしていこうと考えています。また、その結果をもとにして、より良い共生関係を築くための方法論を開発したいと考えています。以下にその概要を説明します。

*シンビオジェニック因子の定義:宿主または腸内細菌が産生する低分子化合物で,分類学上の界を越えて,お互いの生理機能に影響を与える因子


1.シンビオジェニック因子をキーワードにして,宿主と腸内細菌の共生を考える。

これまでに私達がターゲットとしてきた、つまり、本講座開設の礎となったシンビオジェニック因子は、ヒト母乳オリゴ糖とポリアミンです。

・ヒト母乳オリゴ糖に関して:母乳栄養児の腸管では、授乳開始後速やかにビフィズス菌優勢なフローラ(ビフィズスフローラ)が形成されます。母乳は、ラクトースと脂質に次ぐ量の固形成分としてオリゴ糖を含んでいますが(10〜20 g/L),オリゴ糖は乳児の栄養源とはなりません。それにも関わらず、母親は乳腺で多大なエネルギーを消費してオリゴ糖を合成し乳児に与えている訳です。私達は、乳児糞便から単離されるビフィズス菌には母乳オリゴ糖資化に関わる特異な糖代謝経路が存在することを発見すると同時に、本経路がビフィズス菌以外の腸内細菌には存在しないことを明らかとしました。ビフィズスフローラの形成は乳児の健康維持にとって非常に重要で、このことから、ヒトはその乳児期にビフィズス菌と共生するという進化戦略を取り、それを成立させたシンビオジェニック因子が宿主の産生する母乳オリゴ糖であると言える訳です。

・ポリアミンに関して:ポリアミンはほとんどの生物が産生し、特に増殖の活発な細胞において高濃度に存在することが知られています。また細菌においては細胞外へと排出し、細胞間のシグナル因子として利用していることも知られています。無菌マウスおよび通常菌叢マウスの腸内代謝物180分子種を比較したところ、宿主に好影響を与える細菌代謝物として一般に認識されている有機酸の量には大きな差はなく、むしろポリアミン量に顕著な差が見られ、通常菌叢マウスではその濃度が10倍程度に上昇していることを見出しました。また、通常菌叢マウスにビフィズス菌を投与すると、非投与群と比べてやはり有機酸濃度には変化がないもののポリアミン濃度が上昇し、それと共にマウスの寿命が有意に伸び、また加齢に伴う炎症反応や腫瘍発生頻度が低下することを見出しました。これらのことは、腸内細菌が産生するポリアミンがシンビオジェニック因子として宿主の健康に直接影響を与えていることを示唆しています。なお,ポリアミンは一部においてガン化との関連が指摘されていましたが、最近、他の研究グループからも炎症抑制や寿命延長効果などが相次いで報告されています。

本講座では、母乳オリゴ糖とポリアミンを足がかりとして、これらのシンビオジェニック因子の生理機能やその作用機序を分子レベルで解明するとともに、新規なシンビオジェニック因子を腸内細菌側および宿主側から探索していくつもりです。どのように探していくかについては、まだ公表できる段階ではありません。成果が出はじめましたら、逐次、紹介いたします。

2.シンビオジェニック因子を酵素・微生物合成するための基盤を開発する。

シンビオジェニック因子を効率よく合成することが可能となれば、医薬品や食品としての利用が考えられます。母乳オリゴ糖の酵素合成に関しては、平成25年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業[シーズ創出ステージ](代表者・北岡本光博士)において研究を開始しました。ポリアミンに関しては、現在、腸内細菌における新規なトランスポーターを解析中です。というのも、経口摂取したポリアミンはほとんど小腸で吸収されてしまいますので、腸内細菌に「大腸内」で産生してもらう必要があるからです。腸内細菌のポリアミン合成や排出を促進するような因子・条件を探っていきたいと考えています。

また、1の研究において新規なシンビオジェニック因子が単離されたら、それについても合成法の開発を進めていくつもりです。


3.宿主と腸内細菌の共生をより良く理解するためのモデルシステムを開発する。

生命科学という学問は、「モデル」を開発することによって発展してきました。細菌であれば大腸菌、昆虫であればショウジョウバエ、植物であればシロイヌナズナなどがその代表例です。現在、腸内細菌と宿主の共生はマウス個体をモデルにして研究がなされています。もちろん本講座でもマウス個体を利用した研究を行いますが、それだけでなく、ex vivoで共生モデルを作ることに挑戦したいと考えています。そのようなモデルが確立されれば、共生の機序を解き明かす基盤となるだけでなく、これまでに単離されていない多くの腸内細菌(90%以上が培養できないとされています)を分離培養できるようになるかも知れません。本研究は、京都大学大学院生命科学研究科・神戸大朋准教授と共同で行っていくつもりです。


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